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インタビュー

『パーク アンド ラブホテル』 熊坂出監督インタビュー

『パーク アンド ラブホテル』 熊坂出監督インタビュー
INTERVIEW
『パーク アンド ラブホテル』監督
熊坂出
ベルリン国際映画祭で最優秀新人監督賞に輝いた『パーク アンド ラブホテル』が26日から公開される。ラブホテルといえば、通常はオトナの場所。けれど、この映画のラブホテルには、子供や老人、街の人たちが次々にやってくる。なぜなら、屋上が公園になっているから。そんなユニークなラブホテルを舞台に、4人の女たちの孤独が、独特の空気感のなかで交差していく物語。この作品を手がけた、熊坂出監督にお話をお伺いした。
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存在感たっぷりの女主人

存在感たっぷりの女主人

この映画の冒頭―街の真ん中で、空を見上げた少女がいる。一瞬の静けさ、やがてゆっくりと雑踏の音が、耳に戻ってくる……五感を刺激するはじまり。感覚的な粒子がいっぱいに散りばめられたような、繊細に呼吸する映像に魅せられる。  そんな少女が街を歩いていくと、子供たちがはしゃぎながら入っていく不思議なラブホテルと出会う。そこには、ただそこにいるだけで何かを物語ってしまうような女主人がいる。
女主人・艶子を演じるのは、70年代にシンガーソングライターの先駆的存在としてヒットを飛ばしたりりィ。彼女のもつ独特の空気感が、この映画全体を包み込んでいる。
「艶子は、もとからリリィさんと決めていました。塚本晋也監督の『ヴィタール』に出演されていたリリィさんが本当に素敵で、あの存在感は得がたいものがあったので。彼女の魅力については、若い僕なんかが具体的な言葉にしようとしたなら、その途端嘘になってしまうような気がします。また、僕にとっての艶子はライオンのようなイメージだったんですが、ライオンのような人にライオンになってもらうのではなく、一見ライオンとは程遠い空気感を持つりりィさんだからこそ良いと思いました」。

主演りりィの魅力

主演りりィの魅力

「たとえば地下鉄で、りりィさんが同じ車両に乗っていたとしたなら、“あの人は一体何をやってる人なんだろう?“と、その場に居合わせた皆が思ってしまうような何かを身にまとっていると思います。多分、彼女が抱きかかえてきた人生が外側にはみ出てしまっていて、そういうオーラを作っているんだと思いますが、先天的なものなのかもしれません。とにかく自分と同じ世界に住んでいるように見えないというか、手の届かない感じがします。でも彼女は、誰に対しても分け隔てなく同じ接し方をしてくれるのです。
僕がこの映画で一番好きなシーンは、ホテルの終わりの時間に、屋上公園で遊ぶ女の子の母親がやって来て、玄関先で艶子と挨拶を交わすところなんです。「こんにちは」と女が挨拶をすると、艶子が「どうぞ」と言って女を中へ促す。女は「いつもすみません」と言って中へ入って行く。撮影に入って割と早い時期に撮ったなんてことはないシーンなんですが、その時、りりィさんを見ていて、ああ、艶子がいる、と思ったんです。りりィさんが艶子をうまく演じているというのではなくて、艶子がそこにいると感じたのを覚えています。僕だけじゃなくてその場にいたスタッフ皆がそう思ったと思います。それほど説得力のある演技でした」。

女の人を描くこと

女の人を描くこと

―監督は30代前半で男性ですが、50代の女性の艶子を描くのは?
「僕は男だしまだ30代だし、はたから見れば60にさしかかろうとしている艶子とは遠い存在にみえるかもしれませんが、女の人を分析して上手に描いてやろうとは思っていなくて、想像と取材を通して自分が艶子になって書いていくだけなので、遠いという事はありません」
―艶子を主人公にする段階で、ご自身のお母さんは投影されていますか? 「それはあると思います。どこかで母の話になっていると思うし、ある種、母に捧げるみたいなところもあると思います。母は辛口であまり褒めない人なんですが、この映画については誉めてくれて。嬉しかったです。母の人生は随分参考になっています」
―今回、主要な登場人物がみんな女性ですね。
「艶子が主人公になった時、艶子を立たせるには誰が一番機能するかという事で選んだのが、美香と月とマリカだったんです。最初から女性映画として描こうと思っていたわけではなくて、艶子が決まって、後乗りで他の3人が決まって、結果として主要登場人物がみんな女性の映画になりました」
―他のキャラクターもモデルが?
「あるかもしれませんがあまり意識したことはありません。ただ、3人のことを書くために、取材として人と会って話を聞くとか本を読むとか、そういうことはしました。その取材対象者がモデルというわけでもないと思います。むしろ、3人は、僕に近いかもしれません」

キャスティングの妙

「キャスティングについては、予定調和を崩すということを重要視しました。そういった意味で一番思考量を費やしたのは、月役のちはるさんです。例えば、ジャズの主流な構造は、テーマがあってそれぞれの楽器でソロをとるという形だと思いますが、それを映画に置き換えると、テーマが脚本で、ピアノやベースといったそれぞれのパート、プレイヤーが役者、と言えなくもないと思うのです。脚本にのっとってアドリブをしていくというか。アドリブをしようとしなくても、極端な話、テーマをそのまま演奏しようとしても、結局はアドリブになってしまうと僕は思っています。その役者が抱えてきた人生や教養や感性、様々なものがはみでてしまうと思うからです。何にしても、脚本というものは出来上がった時点で既に予定調和な事は否めないと思うのです。最初から楽譜が書かれていてこういうものだと決まっている。それを予定調和のまま、観客の方達に出すわけにはいかない。どう崩していくか、どの程度崩していったら面白いか、どう奥行きを持たせていくか。そういった意味において、予定調和を崩す人を選ぶという事については、意識しています」

感覚的な面白さ

感覚的な面白さ

この作品、登場人物の名前がかわいい。“艶子”“美香”“月”“マリカ”。そして、台詞もなんかかわいい。印象的なのは、マリカが言う「私、精子になりたいの」。愛にさまようマリカは、まっすぐ愛に向かっていける存在に憧れを抱いている。このあたりの感覚的な台詞は、女の人のほうがすっと受け入れられそうだけれど…。
「ドイツ(ベルリン国際映画祭)では、あの場面はすごく受けていて本当に嬉しかったです。マリカは本当に人気がありました」
―なにか感覚的なかわいさがありますよね。頭で考えただけでは出てこないような。
「合理だけだと作品が狭く閉じてしまうと思います。世の中は合理だけで動いていないから、それこそ予定調和になってしまうかもしれません」
―感覚と頭、どちらからスタートするんですか?
「最初は感覚だと思います。その感覚を広げていって、言語化していくんだと思います、人に伝えるために」
―それが脚本になる?
「そうだと思います。ただ、屋上が公園になっているラブホテルという設定については頭というか、技術だという気もしています。組み合わせる技術。僕はまだ30年しか生きていないですが、その短い間に出会ってきた風景や人や物が僕の中に醸造されている。他者から頂戴してきた様々なものを分解して組み替えて、それを人様に差し出すんだと思います。だから、自分の中で0から何かをこしらえているわけではないと思います。
ラブホテルという場所は、僕は元々好きで…というと、なんか誤解されてしまいそうですが(笑)、ラブホテルって外側はお城になっていたりブティックホテルになっていたり、あんなに虚飾な感じがするのに、中で行われていることはすごくリアルというか本能そのものというか。本能という名の花火がぼんぼんあがっている感じというか。(笑)とにかくその対比が面白いと思うのです。そして、今の日本にはそんなにリアルなものってなかなかないような気がします。話が戻りますが、それと公園を組み合わせているだけだから、こしらえているわけじゃないんです」

降りてくるものと、それを受けとめる技術

降りてくるものと、それを受けとめる技術

―予想した以上のものが出ているところは多いんでしょうか。さきほどのキャスティングの話にもありましたが。
「ただそっちだけになると、演出力がないという言い方もできると思うんです。僕、すごく下手だったんですが、大学の時、ジャズ研にいたんですよ。それで、ものすごくうまいテナーサックス吹きの後輩がいて、彼が言っていたことで印象に残っていることがあって。僕は、コルトレーンは天から降ってくるものを吹いているんだと思ってたんです。でも彼はそうじゃないって言ったんです。あれは家で吹いて吹いてフレージングをものすごく考えて練習して練習して、さあやるぞ吹くぞって思って、ライブで吹いてると。その時、僕はそんな考え方をしたことなかったので、本当に衝撃を受けて。要は技術だと。いま思うのは、両方だと思うんです。降ってきたものと技術。形而上的なもの、感覚的なもの、合理でないものは、捉えていかなければいけない。それを形にしていく時に合理、技術…言語というか…が必要なんじゃないのかなと今の僕は思います」
―はじめにアドリブの話がありましたが、りりィさんと艶子像を作っていくうえで、話し合って膨らませていったところはあるんですか? 「最初は、“監督の言っていることはわからない”と、喧嘩になることもありました。けれど、途中から僕は段取りを言うだけでもう十分で、僕とは関係なく艶子がはっきりとそこにいる状態になりました。何が難しかったかというと…たとえば、“あなたのことなんて大嫌い”っていう台詞があったとします。字面は“嫌い”と表現しているんだけれど、文脈や表情やしぐさで、“あなたのことこんなに好きなのに”っていう表現にもなると思うのです。言葉のこちら側の意味ももちろん大事だと思いますが、言葉の向こう側に本質がある事も多々あると思うんです。その向こう側にっていうのは、例えば、りりィさんの抱え込んできている、今までの人生、奥行きだったりすることもあります。要するに、彼女の持っている何かによって、台詞の意味の重さや軽さがずいぶん変わってしまうのです。そういうところのさじ加減が最初は本当に難しかったです。ここまで言わせなくても、全然わかるかな…でも、その“わかる”は観客一人一人の“わかる”にはなりえないから、僕のフィルターを通して判断するしかないわけです。それでずいぶん苦労して、その場で直して。最終的には、そうしてよかったと思っています」

ラブホテルのロケーション

―新大久保のホテルが、舞台になっていますよね。もともと監督がイメージしていたのは?
「僕は渋谷の円山町をイメージしていたんですよ。ラブホテル街やラブホテルの歴史についても本当にいろいろ調べて」
―新大久保になったことで、変わったところは?
「新大久保は新大久保で本当に素敵で。やっぱりラブホテル街って何かあると思います。エネルギーというか。なんですかね…つるっとしたものには絶対にない、本質的なものがある気がします、猥雑なところには。大阪にすごい区域があって初めて訪れた時は本当にカルチャーショックを受けました。山本政志監督の『てなもんやコレクション』とか、あの猥雑さも、すごく好きです」
―ホテルを新大久保にしたことで、屋上からみえる風景に新宿が入っているのもいいですよね。
「あれ、よかったですね。新宿が見えるっていう、あれも新大久保にした決め手のひとつです。渋谷だと、ああいう風にはならない。高層ビルが入ってこないんですね。これは僕が日本人で東京に住んでるからだと思いますが、新宿が背負っている何かを感じて、結果として、奥行きを感じます。でも、都市の抽象感は損なわれていないと思いますし」

インタビュー中、こちらの名刺を机の上において、会話の中に何気なくこちらの名前を入れて下さった熊坂監督。そういう心遣い、この映画に散りばめられている気がします。質問に対し、その場で自分の中に生まれた答えを、一生懸命たどりながらお話される。その過程の生っぽさは、この映画の生っぽさともつながる気がする…そんな独特の呼吸する空気感が印象的な作品です。

(撮影・取材・文:多賀谷浩子)
(C)PFFパートナーズ

<公開表記>
2008年ベルリン国際映画祭最優秀新人作品賞 受賞
『パーク アンド ラブホテル』
監督・脚本:熊坂 出(くまさか いづる)
出演:りりィ、梶原ひかり、ちはる、神農 幸
配給:マジックアワー
公式HP:www.pia.co.jp/pff/park

東京 4月26日(土) ユーロスペースにてロードショー
大阪 第七藝術劇場、愛知 名古屋シネマテーク他全国順次公開
★埼玉 5月24日(土)〜5月30日(金) 川越スカラ座にてロードショー

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