『あの空をおぼえてる』 竹野内 豊インタビュー


- 『あの空をおぼえてる』
竹野内 豊
- 4月26日から公開される『あの空をおぼえてる』。自然豊かな土地で、幸せに暮らす4人家族に訪れた、ある悲劇。一家がそれを乗り越えていく過程の細やかな感情を、大切に丁寧に描き出した作品だ。あらすじを語ればシンプル。けれど、そこには誰もが心を揺さぶられずにはいられない、子どもの頃のなんとも言葉にしがたい感情が溢れている。監督は、子どもの感情を描くことに定評のある冨樫森。『台風クラブ』をはじめ、10代の瑞々しい感性をスクリーンに焼き付けてきた相米慎二監督のもとで経験を積んだ冨樫監督ならではの、子どもたちの自然さ、何気ない感情のいとおしさ…そんな冨樫作品に初主演し、父親役を演じた竹野内豊さんにお話をお伺いした。
童心に帰る思いがしました
「今回、この映画をやっていて、童心に帰るというか、懐かしさを感じました。子供の頃、初めて映画館に足を運んで見た映画が『スタンド・バイ・ミー』だったんです。あの映画に描かれている、大人になって忘れていたような何か…その頃のきもちを思い出しました。自分たちが子どもの時って、いい映画がもっと多かった気がするんです。シンプルなのに心に届くというような。たとえば、『スター・ウォーズ』も、昔の作品を見ると、なんかあたたかい。そういうものをやりたいと思ったというか…嫌なニュースが多い中、こういう映画は大切だと思ったんです」
お父さん役について
「父親役は、この前にやったドラマ(『家族―妻の不在・夫の存在―』)に続いて2度目です。親の気持ちがわからない自分が、この映画の台本を読んだ時、最初、(竹野内さんが演じた)雅仁と(妻の)慶子の気持ちがわからなかったんです。もう少ししっかりしていてもいいんじゃないか。ここまで心が壊れたままでいいのかなって思ったりしたんです。でも撮影中、ある時、「これが本当の子どもだったら、壊れるな」というのをすごく感じることがあって。スタッフが雅仁と同じような境遇にあった方たちの手記を見せてくださったんですが、もう少ししっかりとか、そんな理屈じゃないんだなと。雅仁も頭ではわかっていても、心の傷が深すぎて、心が完全に壊れてしまっている。現場に入って、子どもたちとコミュニケーションをとっていく中で、最初に思っていたのとは違うんだな、理屈じゃないんだな、と思いました」
冨樫監督は、何も言わないんです
「監督には「弱くてダメな父親でもいいから、人間なんだというところを見せてほしい、思い切り、感じたままにやってほしい」と言われました。監督は、カメラの横にいて、何も言ってくれないんです。ただ、黙っているだけなんです。粘って待ってくれている…愛情を感じますよ。いろいろ言うのではなくて、じっと待っていてくれる。そこで諦められて、「しょうがねえな、OK」って言ってしまわれたら、どーんと突き放されたような気持ちになりますけれど。励まされました」
―テイクの多かったシーンは?
「(慶子の同僚役の)中島朋子さんのところに訪れるシーン。あそこで21テイクだったかな」
―何気ないシーンですよね。どうして、そんなに?
「いま思えば…撮影が終わってから気づくというのも遅いかもしれませんが…初号の試写を観て、何度かインタビュー受けて、監督に見えていたあの時の自分っていうのは、色々ないらない鎧のような何かをまとっていたのかなって。監督は「そこが見たいんじゃなくて、もっと内側の部分が見たいんだよ」っていうのをすごく求めていたんだと思います。でも、それは敢えて言わないんです。「おまえの心の中を見せてくれ」とは。もう追い込んで、追い込んで。困って…ここまで追い詰めるかって…そこまで追い込んできますから、監督は(笑)。勉強になりました」
理想の父親像
「以前は、自分が父親になったら、何でもできる親父でありたいなという、自分の中での父親像があったんです。もし、子どもができたら、何でも父親として子に伝えて教えてあげたいという気持ちがあった、そういうことを漠然と考えていた時期があったんですけれど、いまはかえって、子どもから教えてもらうというか…自分が教えるんじゃなくて、子どもから…絶対的な親子の関係はあっても、教えるとかそういうことを考えずに、時には親がしっかりしていないくらいの方が、子どもが勝手に考えて成長していくものなんじゃないかなと思ったりして。
実際にあの子たちと接していると、頭の中、スポンジですから。吸収力がすごいんです。柔軟に受けとめて、大人が考えている以上のことを考えている。子どもだと思っちゃいけないんだなと思いました。監督からの指示や、細かな動きも、やってのけちゃうんです。自分が何年もかかかって、ようやくできるようになったようなことも。監督も子ども扱いしませんし。愛情をもって接しているのをすごく感じました」
いま、この映画が作られたこと
「いまは命を軽く考えているような事件が多いでしょう?子供たちは、自然や小動物とふれあう機会がないんじゃないかと思うんです。自分は田舎育ちなんですね。田舎っていっても埼玉ですけれど。山とか川とか、それこそ『スタンド・バイ・ミー』みたいなことを…友達どうしで、学校帰りにランドセルをおいて、5、6人で探検して…あの映画みたいに…本当にそういうことをやっていたんです。
その頃に見ていた番組って、なんかいいんですよね。自分が昔、そういう映画を観て育って、昔の映画ってシンプルな中に、なんかいいんだよなって…そういうものを若い子たちにぜひ観てもらいたいって言う気持ちはありました。
僕は、テレビの仕事も多いんですけれど、テレビはテレビの良さがいろいろあると思います。でも、映画って絶対的に残っていくものだと思うんです。レンタルビデオ店に行くと、何年も前の映画もある。テレビはナマモノなので、その時の旬で、終わったらなくなってしまう。映画はやはり違いますよね。どこかでふと思い出した時に、あの映画っていい映画だったなと思い返すことができる。この作品もそういう映画になっていると思う…きっとどこかで残る話のはずだと思っているので、これから結婚して家庭もたれる方にもぜひ観ていただきたいし、お子さんがいらっしゃる方にも子どもを連れて行ってもらいたい。子どもは子どもの視点で感じることがあると思うので。
自分たちが子どものときって殺人事件なんかあったら、大ニュースで大変なことになっていたと思うんです。最近は夕方のニュースをつけても「またか」と思ってしまう。それが怖いなって。今の子どもたちは命に対してどう考えているのかなと思います」
―この映画の舞台になった岐阜も、自然豊かで素敵なところでしたね。
「都会の生活では、心の満たされないものがあると思うんです。ああいうところで暮らしていることで、都会にない不便さはいろいろあると思うんですけれど、季節の風とか土の匂い、草の匂いが感じられる。理想の生活だと思います」
今後の展望
「インタビューで、映画は『冷静と情熱のあいだ』(01)から数年ぶりと言われて、気づいたら、そんなに経ってしまっているんだって思いました。今後は、もっともっと1年に3〜4本ぐらいやりたいなって思います。テレビでも映画でも、ジャンルにこだわる必要はないと思う。たとえば、水野美紀さんと共演していて、アクションは自分はやったことないんですが、「アクション楽しいよ」って言われて、「やってみたいな」とちらっと思ったりして。いろいろチャレンジしてやっていきたいと思います。自分で観に行く時は、サスペンスだとか冒険もの、ヒューマン…そういう映画が多いんですが、ホラーの話を頂いて「うーん」って思っても、やってみたら、新しい発見をするかもしれないし。ホラー映画を観るの?全然、大丈夫ですよ」
―ホラーといえば、共演の水野美紀さん、『口裂女』をやっていらっしゃいましたが。
「ですよね。ケータイの写真を見せてもらったんですけど…こわかったです(笑)。それを子どもたちに「ほら〜」って(水野さんが見せていて)(笑)。娘役の里琴ちゃんなんか、本当に怖がっていました」
今回、涙するシーンが多かった竹野内さん。「演技で泣くって、自分はなかなかできなくて。本当にきもちの中で感じられないと」。インタビュー中も、相手が初対面であろうと誰であろうと、そういった形にとらわれず、心で会話をしようとする姿勢が印象的でした。
写真:大橋仁
取材・文:多賀谷浩子
『あの空をおぼえてる』
4月26日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー











