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インタビュー

『4ヶ月、3週と2日』 クリスティアン・ムンジウ監督インタビュー

『4ヶ月、3週と2日』 クリスティアン・ムンジウ監督インタビュー
INTERVIEW
『4ヶ月、3週と2日』監督
クリスティアン・ムンジウ
最近、映画に圧倒されたこと、ありますか?この映画、すごいです。昨年のカンヌ国際映画祭でパルムドール(最高)賞に輝いた映画『4ヶ月、3週と2日』。大きく言えば、ひとつのことしか描いていないのに、この迫力。最後の最後まで一瞬も飽きることなく、物語に引き込まれます。本物以上に本物らしい、この映画のリアリティ。いかにして、それが生み出されたのか―ここ数年、カンヌ映画祭を騒がせているルーマニアの “ニューウェーブ”。そのキーパーソンであるクリスティアン・ムンジウ監督に制作秘話をお伺いしました。

ワンカットの迫力

ワンカットの迫力
(C)Mobra films 2007

私たちが日頃、目にする映画は、ひとつの場面をいくつかのカットで見せているものがほとんど。けれど、この映画は、ワンカットでじっくり見せていく。何かに途切られることなく、私たちは物語の中に強烈な磁力で引き込まれてしまう。
「まず、映画のスタイルとして、1シーン1カットでいこうと思ってたんです。俳優の中に登場人物のきもちが生まれて、他の人物との関係が築かれていく…その感情の流れを妨げないために、それが一番いい方法だと思いました。この映画は、複雑な感情を描いているから、カメラを何度も止めると、俳優にも感情の流れが生まれにくいでしょう。
また、ワンカットで撮ることで、誠実な映画づくりができると思うんです。映画監督の常套手段を避けることができる。ある意味、映画というのは作為的に語るところがありますよね。たとえば、映画には音楽がかかるけれど、実際には僕たちの日常には音楽なんてかからない。登場人物の本物の感情を出すのに、こういう作為的な方法を使わなくてもいいんだということを言いたかったんです。既存のやり方をすべて疑問視したくなったんですね。たとえば、編集のやり方なら、どうしてカットするのか、クローズアップするのか…クローズアップするのは「この人よりこの人の方が大事ですよ」という風に、観客に映画の見方を限定することになりますよね。ワンカットだったら、お客さんは自由に、自分の見方でシーンの中で起きていることを見ることができる。生まれたナマの感情、本物の物語を目撃しているんだという気持ちになれると思うんです」

チャウシェスク政権下の雰囲気

チャウシェスク政権下の雰囲気

この映画の舞台は、1987年、チャウシェスクによる独裁政権下のルーマニア。この時代、労働力を確保する目的で、4人子供を産んでいない女性は、中絶することが法律で禁止されていた。そんな状況下、望まない妊娠をしてしまった若い女性ガビツァ、彼女を必死に助けようとする友人のオティリア、そしてガビツァの中絶を極秘に引き受ける医者の男ベベ…この3人を中心に、映画が展開していく。
あまりに引き込まれてしまうのは、この3人がホテルの一室で話し合う場面。中絶は、もしも明るみに出てしまったなら、厳罰が下される危険な行為。段取りどおりに進まない状況に苛立つベベと、彼しか頼る人がいない二人の女性。威圧感に溢れたベベの物言いに振り回され、部屋にはぬきさしならない緊迫感が立ち込めていく。
「あそこが、この映画でいちばん重要な場面だったんです。ここは、25分間を3カットだけで見せています。いちばん重要なのは、ベベが、ふたりの女の子を磁力のように引きつける話し方をすること。それを映画のリズムにしたんです。あれが、あの時代の話し方なんですね。威圧的でアグレッシブなものの言い方をする。彼の言い方は、直接的には何を意味しているのか、わからないでしょう。あれが、あの時代の特徴的な話し方なんですよ。こういうネゴシエーションの場面をいかに生き抜くか―そういう時代の雰囲気を、このシーンはエッセンスとして伝えているんです。
ここは、非常に集中力を要する、俳優にとっては疲れる場面なので、1日に3、4テイクくらいしか撮れませんでした。ああいう複雑な場面は、1日目にやって、一晩寝て、翌日のファースト・テイクがいいんです。何かが寝かされて腑におちるのかもしれませんね」

内と外のリアリティ

内と外のリアリティ

先のホテルの一室のシーン。部屋の窓が少しだけ空いている。緊迫した人間関係が渦を巻く部屋の「内」と、その「外」ではいつもどおりの日常が流れていることを感じさせる少しだけ空いた窓。この対比が、圧倒的なリアリティにつながっている。
「僕はロケが好きなんです。土地が発するインスピレーションというのは、僕だけでなく俳優が演じることの大きな助けになる。そして、ロケが好きなのには、内と外の対比も理由です。昼間のシーンの自然なリアリティは、そういうところから来るんですよ。ロケ地の選び方も、ありますね。シンメトリカルな場所を選ぶことも大切ですし、この映画は特定のアングルからでなく、全部、フラットに撮っているんです。同じ方向で、ふたつのシーンを続けて撮ってはいません。いつも直角に方向を変えているんです。そこだけ気にして見ていただくと、ある意味、ひとつの心理的な秩序ができていることがわかると思います。そうすることで、見やすくなるんです」

この映画を撮った意味

この映画を撮った意味

「あの時代の人々のことを、いまの時代の感覚で判断するのは難しいんです。やはり、その時代に身を置かないと、わからないところだと思うんですね。この映画に描いた人たちは、当時、本当にああいう雰囲気だったんです。だから、この話を取り上げたかったところがあります。当時の人々が間違っていたと言いたいのではなくて、実際にあったことをありのまま描いて、後からそれを見た人々が学ぶことがあるかもしれない。それが、僕がこの映画を作った、動機のひとつでもあります。主人公の女性・オティリアのボーイフレンド、アディの態度も、あの当時の男の子はああいう感じだったんですね。彼は、ポイントを外れているんです。妊娠中絶について何をすればいいのか、ということについて。共産主義に暮らしている悪い副作用というか、皆が、檻の中に閉じ込められた動物みたいな反応しかできなくなってしまっているんですよ。倫理観とか、そういうものは、平穏な暮らしの中でこそ生まれるものなんです。抑圧された、なんとか生き延びなければ行けない状況だと、自分勝手な世界になる。それは、アディに限ったことではないんです。あの時代は皆、そうでした」

 この映画は、共産主義体制下のルーマニアの歴史を描くプロジェクトのシリーズ1作目。ムンジウ監督は、今後も、自身が監督するかどうかは別として、このプロジェクトを進めていくという。カンヌ国際映画祭でのパルムドール(最高)賞受賞を経て、海外からのオファーも増えているという現在。仕事だから、映画のプロモーションだから…そういった役割を超越したところで、ひとつひとつの質問について、心から話をしてくれたムンジウ監督。話していくうちに次へ次へと話がつながり、その中で答えが見つかるので、白熱しすぎて、「あれ?それで質問は何だったっけ?」となるところも面白かった。こんな風に連鎖して、ムンジウ監督の頭の中では、物語が紡がれていくのでしょう。

写真・取材・文:多賀谷浩子

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