『ライラの冒険 黄金の羅針盤』 クリス・ワイツ監督インタビュー


- 『ライラの冒険 黄金の羅針盤』監督
クリス・ワイツ
- 3月1日から公開される『ライラの冒険 黄金の羅針盤』。『ハリー・ポッター』や『ナルニア物語』を思わせる、壮大なビジュアルが広がる冒険ファンタジーなのだが、面白いのは監督がクリス・ワイツだということ。名前を聞いてピンと来ない人も、ヒュー・グラントが、ダメダメなモラトリアム男を演じた、愛すべき映画『アバウト・ア・ボーイ』の監督だと聞けば、「あぁ」と思うかもしれない。ニューヨークに生まれながらも、イギリスと縁があり、第2の故郷のようだというクリス・ワイツ監督。『ライラの冒険』も、イギリスの小説家、フィリップ・プルマンの描いた物語。原作の大ファンだったという監督に、映画が完成するまでの裏話をお伺いした。
長編小説が、スクリーンに映るまで
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―編集部にも原作ファンが多いんです。今回、とても原作に忠実に映画化されていましたけれど、とても長いでしょう?まとめるとき、どんなことを意識したんですか?
「400ページの小説をコンパクトに見せるのは難しかったですね。とにかく心がけたのは、主人公の少女、ライラの視点から脚色すること。初稿では、あらゆるシーンにライラが出ていたぐらいなんです。彼女を中心に、物語を展開することにしました。日本の方は宮崎駿の作品でなじみがあるかもしれないけれど、西洋のファンタジーは、いつも主人公が少年なんですね。少女が主人公のファンタジーは、珍しいんです」
―原作者のフィリップ・プルマンさんから依頼されたことは、あるんですか?
「彼には、いくつかアイディアを頂きました。セットに来て指摘してくれたのは、たとえば、(重要な場面の舞台となる)ボルバンガーは「あまりにも、キレイすぎる」ということ。それを聞いて、スタッフが急遽、泥を塗ったりしたんです。天井に水のしみをつけたり、壁に子供の落書きを書いたり、おかげで少し荒れた感じを出せました。
ロンドンの街並については、彼の方から、2007年の実際のロンドンの街並も加えて欲しいということだったので、ノーマン・フォスターが設計した“ガーキン(Gherkin)”という建物があって、“ピックル(Pickle)”という愛称で呼ばれているんですが、それを入れたりもしているんですよ。
彼とはメールでやりとりをしながら、進めていったのですが、ひとつ面白かったのは、映画の中で、ニコール・キッドマン演じるコールター夫人が、自分のダイモン(この物語では、すべての人間の魂が、動物の形でその人のそばによ寄り添っており、その動物のことを“ダイモン”と呼んでいる)の猿を叩くでしょう。あそこはフィリップ・プルマンが書き加えたんです。でも、熱心な原作ファンは「コールター夫人はあんなことしない!」と。書いたのは、原作者です(笑)。僕の責任ではありません」
パラレル・ワールドを作り出すために
―ライラ役のダコタ・ブルー・リチャーズの演技は自然でしたね。監督も、役者さんをやっていらしたそうですが。
「僕を役者と言ってくれて、ありがとう。僕は、あんまりいい役者じゃなかったんだけどね(笑)。カメラの前でどんな風に演じたら、スクリーンに映えるのか、僕なりに理解しているつもりなんだけど、今回、ダコタの演技に関しては、自然なものが出るようにしたかったんです。オーディションをして、彼女の女の子らしさや、ライラのイメージにぴったりだということで彼女に決めたんですが、往々にして子役の演技というのは、大げさになりがち。それは、彼らの多くが舞台出身者であることも、理由のひとつだと思うんだけど。ダコタには演技の経験がありませんから、そういうこともなかったですし、今回は本当に自然に演じてくれたと思っています。
ひとつ問題だったのは、イギリスでは子役は1日4時間しか働けないんです。そのほかの4時間は家庭教師のもとで勉強をして、合計8時間ということになっているんですけれど。撮影中、彼女は、そういう生活をしていたんですが、シーンによっては4時間では撮りきれず、何日もかけて同じシーンを撮らなければならないんですね。そういう難しさも、ダコタは乗り越えなければならなかったんです。かなりハードだったと思いますね」
―ビジュアル、見事でしたね。特にご苦労されたシーンは、あるんですか?
「ありがとう。全部、ほんとに大変だったよ(笑)。それを全部まとめて、これだけの映像にしてくれたのは、影の功労者・プロダクション・デザイナーのデニス・ガスナーのおかげだと思います。彼はかつてオスカーも受賞していますし(『バグジー』(91)で受賞)、並外れた才能の持ち主ですよね。
今回、僕らは、原作に描かれているパラレル・ワールドを観客に伝えなければいけなかったわけですが、パラレル・ワールドには、私たちの世界の要素があって、どこかで見たような親しみがある。でも、パラレル・ワールドでもあるから、どこか異質なものも入っている。その両方の要素が、衝突せず、当たり前のように調和している、そういう世界を作るのは難しいことでした。しかも、その世界では、動物が喋ったり、熊が鎧を着けていたりして(笑)。さらに難しい。観客に違和感なくその世界を受け入れてもらえるように、苦労しましたね」
イギリスと縁があるようですが…
―監督は、ニューヨーク生まれと聞いていますが、イギリスの大学にいらして、今回、『ライラの冒険』も、イギリスの小説ですね。
「そもそも僕の父親がドイツ人なんです。父は、ベルリンで生まれて、10歳でロンドンに移ったんですね。その後、アメリカに移住した人なんです。そんな縁もあって、僕は14歳の時に、1年間、ロンドンの寄宿学校に通ったんですよ。イギリスの生活がどんなものか、両親は僕に経験させたかったんでしょう。イギリスの1年間は楽しくて仕方ありませんでした。父の目が届かないから、自由を謳歌してました(笑)。あんまり楽しいので、そのままイギリスで大学まで出たんです。僕にとっては第二の故郷のような場所ですね。でも、この映画を撮影するために、また1年半ロンドンに住んでみて、ロンドンの天候は僕の体に合わないな、もうあそこには住みたくないなと今は思ってるんですけど(笑)。6ヶ月前に息子が生まれたんですが、彼もロンドンで生まれたんですよ」
―イギリスは、『ハリー・ポッター』のような物語が生まれたり、ゴーストや妖精、そういったことを学問的に研究する土壌があったり…ファンタジーが生まれる土壌があると思うんですね。今回、『ライラの冒険』もファンタジーですが、そのあたりのこと、どうお考えですか?
「たしかに、そういった土壌がありますよね。オックスフォード出身のファンタジー作家といえば、C.S.ルイスやトールキン、この物語を描いたプルマンや『ハリー・ポッター』のJ.K.ローリング、たくさんいますよね。日本もそういう土壌があるんじゃないかと僕は思うんです。そう考えると、島国っていうのが、ひとつのキー・ポイントなのかもしれませんね。島国の閉ざされた環境で、伝承されていく物語が生まれるのかなと。悲しいかな、アメリカはそういうものが乏しくて、スピリットや妖精…そういった土壌が育たなかったのかもしれませんね」
現在13歳のダコタから、あんなに自然な演技を引き出した監督も、自分が写真に写るのは苦手だそう。「自然に、映らないとね」と言いながら、誠心誠意、カメラに向かう姿が、印象的でした。
- 『ライラの冒険 黄金の羅針盤』公式サイト
3月1日(土)、丸の内ピカデリー1他 全国松竹・東急系にて超拡大ロードショー

