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インタビュー

『ラスト、コーション 色、戒』 アン・リー監督 インタビュー

『ラスト、コーション 色、戒』 アン・リー監督 インタビュー
INTERVIEW
『ラスト、コーション 色、戒』監督
アン・リー
昨年のヴェネツィア国際映画祭で金獅子(最高)賞を受賞した『ラスト、コーション 色、戒』が、ついに封切られた。同じくヴェネツィアで金獅子賞に輝いた『ブロークバック・マウンテン』もそうだが、アン・リー監督の映画には、この監督の映画でなければ味わえない「情感」がある。その背景にあるものは―?その秘密、すこしだけ覗かせていただきました。

心揺さぶられる映画の裏で

心揺さぶられる映画の裏で
(C)FOUCUS FEATURES,EDKO FILMS/
WISEPOLICY

―どうして、こんなに心揺さぶられるのだろう―『ブロークバック・マウンテン』といい、今回の『ラスト、コーション』といい、アン・リーの描く世界は、深く私たちの心の奥深くをとらえる。5ヶ月・118日間に及ぶ撮影期間中、監督自身は
「映画『地獄変』を思い出して、主人公と同じように地獄の絵を描いているような気分になりました。どうして、こんな修行をしているのだろう」と思ったという。
―アン・リー監督の話を聞いていると、なぜ、ここまでスクリーンの中の俳優が「生きて」いるのか、それがじわじわと伝わってくる。
「監督は、監督の望む演技ができていない時は、すぐにわかるんです。たとえ、私が監督に背中を向けている時でも」というのは、主人公の女スパイ、ワン・チアチー役を演じたタン・ウェイ。新人のタン・ウェイからこぼれんばかりの感情を引き出した演出は、いったいどんなものだったのか。
「僕自身、ワン・チアチー役には親しみをおぼえていて、感情移入できるところがありました。タン・ウェイがオーディションで部屋に入ってきた時、これは彼女の映画になると直感しましたが、ひとつ心配だったのは、いずれ撮ることになるベッド・シーンです。僕は彼女といったいどういう関係で…僕がワン・チアチーになるのか、それともどういう関係で僕が彼女をどう指導していくのか…その辺はずいぶん混乱しました」
―この映画の原作は、日本統治下の上海で人気を博し、現在もアジアを中心に愛されているアイリーン・チャンの短編小説。彼女の自伝的要素も多分に含まれるこの小説には、学生時代に演技を学んでいたアン・リー監督も、共感する部分が多かったという。

誰も見たことのない、トニー・レオン

誰も見たことのない、トニー・レオン

「撮影は、イーが泣くシーンから始まりましたが、最初のテイクが終わり、監督を見ると、彼は泣いていました」というのは、“イー”を演じたトニー・レオン。抗日運動に身を投じたワン・チアチーに命を狙われながらも、彼女に見出してはならない美しい感情をおぼえてしまう日本の傀儡政権の「顔」役。場合によっては、友人さえ手にかけなければならない非情な立場の男。荒々しい口調の軍人役。これまでのトニーには考えられない役柄だ。
「トニーの役は非常に難しく、相当なチャレンジだったと思います。今までとまったく違った方向で演技をしていかなければならない。その辺についていろいろ話をしました。彼は、国民党のいわゆる(イーのように日本側についた)売国族のことは、あまり詳しくはありませんでしたが、その辺については僕はわりと詳しい。父も国民党の高官でしたから、同僚の姿も見ているし、そのあたりは彼にアドバイスができるから、と」。
―イー役の背景について、トニー・レオンに色々なアドヴァイスをしたというアン・リー監督だが、ワン・チアチー役のタン・ウェイにも、時代背景をはじめ、ワン・チアチーを形作る周辺事情について膨大な資料が渡されたという。ビル・コンさんいわく、「何度でも同じシーンを撮影する。忍耐強く、ベストの演技を引き出す」アン・リー監督だが、現場に入る前に俳優たちに手渡す「情報」も、役に厚みを加えているようだ。

タン・ウェイとの稀有なつながり

タン・ウェイとの稀有なつながり

―この映画は、タン・ウェイの映画だといっても過言ではないが、1万人の中から彼女を見つけ出したエピソードは何か運命的なものを感じさせる。
「オーディションで彼女を見た瞬間、勘がはたらいて、これは彼女の映画だ、この人ならできる!と直感したんです」
―とはいえ、その時の彼女は、寝不足で目にはクマ、日に焼けていて、しかも風邪で熱があり、やつれていたという。それでも、アン・リー監督には、彼女がわかった。
「彼女とは、不思議な縁も感じました。これまで、こんなに時間をかけて、役者に教えたり、役者から学んだりしたことはないぐらい。タン・ウェイとした経験は、人生で特殊な経験だったと思います。役者は、何作かの作品に出演して、その過程で変化していくものですが、タン・ウェイの場合は、この映画だけの短い期間で、3つの段階を経ているんです。最初は、非常に天真爛漫で純真な女性。ベッド・シーンを経験してから、純真さは失われ、より成熟した女性に変化していく。最後クライマックスを迎えるのですが、その過程は、彼女だけでなく、僕自身も勉強したわけです。この映画が完成してからまた見てみると、本当に成熟した女性になったなと思います。演技に関しては複雑な味わいをもった女性だなと。ふたりで闘った結果でもあったのだと思います。 もっとお話すると、撮影現場で僕がインスピレーションが沸かない時があると、なんと彼女も風邪気味だったり、そのぐらい二人の間に何か見えないつながりがあったわけなんです。そんな撮影の経験、役者と一緒に闘った経験は、人生の中で初めてです」

俳優の表情が、いちばんの楽しみ

俳優の表情が、いちばんの楽しみ

―この作品を撮影しながら、
「タン・ウェイ=ワン・ジャオジー=(原作の)アイリーン・チャンだと感じた。3人の女性が三位一体となって、今回はアイリーン・チャンが代わりにタン・ウェイを選んでくれたんだなと思いました」というアン・リー監督。
―ほかのキャストについても、
「タン・ウェイ、トニー・レオン、ワン・リーホン、3人の役者と仕事ができたことは、人生の中で最も幸福な瞬間だったと思います。3人は、まさに僕そのもの。僕の3つの側面を表しています。リーホンは純真さを、タン・ウェイは僕の心を、トニーは、ちょっと言いにくいのですが、男としての心の脆さを表してくれました。まさに僕の分身になってくれました」
―アン・リー監督の映画を観ていると、役者たちの溢れんばかりの表情に、心を持っていかれる。なぜ、こんな表情が撮れるだろう―
「僕は、表情がいちばんだと思っているんです。人間の表情以上に、人間の感情や色を表現してくれるものはない。そこが映画を撮る、一番の楽しみ。役者を撮ることが、僕にとって、いちばんの楽しみなのです」

この監督の作品でなければ出会えない、心を細やかに映す、繊細な感情描写を心待ちにしながら、次なるアン・リー監督の挑戦に期待したい。

取材・文・写真(記者会見):多賀谷浩子

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