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インタビュー

『ラスト、コーション 色、戒』 主演女優 タン・ウェイ インタビュー

『ラスト、コーション 色、戒』 主演女優 タン・ウェイ インタビュー
INTERVIEW
『ラスト、コーション 色、戒』
タン・ウェイ
この映画に出演したことで、一躍、世界の注目を浴びたタン・ウェイ。ポスト「チャン・ツィイー」の呼び声も高いが、実際にお会いすると、僭越ながら「もしや、それ以上では…!?」と思わされる。というのも、タン・ウェイの受け答えには、演じ手としてはもちろん、作り手側の深みと客観性…そしてユーモアが感じられるから。アン・リー監督が「撮影中に、こんな体験は初めてと思えるほど、ふたりの間に特別なつながりが生まれた」と会見で語っていたのも、なんとなく頷ける。「1年に1本、舞台をやっていきたい」と思っていたという舞台が大好きな彼女は、実際、自分でも戯曲や短編小説を書くという。

“古風な美人”の素顔は…

“古風な美人”の素顔は…

―この映画のオーディションで、1万人の中から見出されたタン・ウェイ。彼女なくしてはこの映画は成り立たないほど、鮮烈な輝きを放っている。けれど、アン・リー監督は彼女を選んだ経緯について、こんな風に話す。
「女性の好みの問題でしょうか…いまの中国でよく見かけるような女性は、ちょっと僕の好みとは違う…僕は、古風な女性が好きなんです。そこで、オーディションにのぞむ際、助監督に言いました。「皆さんが見て、この人はちょっと…という人がいたら、僕に教えて」と。(笑)。そういう意味では、タン・ウェイは、万人受けするタイプではないかもしれません。彼女のもっている気質、話し方、振る舞い、すべて私の父親、母親の時代の女性と一致していましたし、どこか中学時代の国語の先生とも似ているような…(笑)」
―彼女のいる前で、こんな風に冗談めかして語れるのは、ふたりの間に築かれた関係はもちろんだが、タン・ウェイの飾らない人柄のせいもあるだろう。彼女自身、機転が利いて、受け答えにも、アソビがある。プロデューサーのビル・コンが、「彼女は、女優としても素晴らしいけれど、人間として本当に素晴らしいんだよ」としみじみ語っていたが、映画はもちろん、近くでお話をお伺いしていても、そんな彼女のあたたかみ、温度のある人柄が伝わってくる。
「この作品を撮る前は、私は男っぽくて、スカートすら履かなかったんですよ。しかも、歩幅が大きい(笑)。この撮影を通して、女性として成長したなと思います」と飾らない素顔を見せるが、スクリーンの中では、美しいチャイナドレス姿で、エレガントな身のこなしを披露している。
「チャイナドレスの先生をつけてもらったんです。いつもチャイナドレスにまとめ髪で、絵から抜け出てきたみたいな人でした。チャイナドレスは、中国文化のエキスが凝縮されたものなので、その背後にある文化を理解できないとだめなんですね。歯の磨き方、当時の歯ブラシの使い方に至るまで教わって、リアルなチャイナドレスを着ている女性を描いていったんです」

主人公になりきるために

主人公になりきるために

―そんな彼女が演じているのは、抗日運動に身を投じた女性、ワン・チアチー。そして、そのチアチーは、“マイ夫人”になりすまして、日本の傀儡政権の顔役である、トニー・レオン演じる“イー”の命を狙う。役のうえで、またさらに演じる、という複雑な立場だ。
「私たちは、実生活の中でも、いろいろな役を演じているんだと思うんです。いま、私は質問に答え、あなたは記者ですが、家に帰れば、母であったり、妻であったりする。それを意識して演じているわけではないですよね。それは、ワン・チアチーにとっても同じだと思うんです。とにかく3ヶ月の準備段階を経て、118日間撮影していたわけですが、その間、114日間は演じていて、睡眠時間は毎日3時間ぐらい。だから、役から抜け出す時間がなかったんです。チャイナドレスを着たら、自分はワン・チアチーになりきって演じていました」
―なんといっても、鮮烈なのは、ワン・チアチーとイーのベッド・シーンだけれど、
「感情を表現するひとつ方法としての、ボディランゲージなんですよね。ベッド・シーンに関しては、リハーサルがあって、何度も何度も、監督が満足いく演技ができるまで、リハーサルを重ねました」。
―アン・リー監督とは、常に話し合いを重ねながら、撮影が進められた。もっとも話し合いを要した場面は、抗日運動のボスの前で、彼女が、イーとの間で揺れ動く感情を抑えきれず爆発させるシーン。まさに、迫真の演技だ。
「あの場面は、事前に台詞を渡されず、直前に渡されたんです。監督が、「ワン・チアチーになりきって、感想を聞かせて」と。私が、なりきって台詞を読んで感想を伝える。監督は、それを聞いて、書き直す。その作業を何回か繰り返して、一緒に作り上げていったんです。このシーンだけに3日かかりました。最初から脚本もありましたが、監督はそれにこだわらず、あくまで演じているプロセスの中で、演じ手どうしの関係や、感想を聞きながら、書き直していくんですね。呼吸は、非常に合っていましたね」
―監督と作り上げて言ったというワン・チアチーの台詞。その場面には、彼女はマイ夫人なのか、それともワン・チアチー自身なのか、ひいてはイーに対して本当に殺意を持っているのかどうかが、滲んでいる。
「ワン・チアチーがその時言った台詞は、自分は最初からマイ夫人なわけではないということですよね。たぶん、ワン・チアチーは、自分はスパイだから、マイ夫人になりきろうとした。そして、イーとの出会いがあった。スパイという任務を負い、彼女は演じていた。最初から、スパイを意識して、成し遂げようという気持ちはなかったかもしれない。そういう風に思っています」
―ということは、ワン・チアチーには、イーに対する殺意はなかった?
「なかったんじゃないかと思います。彼女は、生まれつきの女優。与えられた役を一生懸命に生きていただけ。彼女はひとりぼっちで、心のよりどころがない。誰かの温もりを求めていて、そこでイーと出会う。もちろん、イーの感情は歪んだ感情ですが、彼女はその中にもぬくもりを感じたのではないでしょうか」

タン・ウェイ=ワン・チアチー?

タン・ウェイ=ワン・チアチー?

ところで、アン・リー監督は、記者会見でこんなことを言っていた。
「撮影をしていて思ったのは、タン・ウェイ=ワン・チアチー=(原作者の)アイリーン・チャンだということです。3人の女性が、三位一体となっていた。今回は、天国のアイリーン・チャンが、僕の代わりにタン・ウェイを選んでくれたなと思いました」。
―それについて、尋ねると、
「私は、イーのような人には会えていないから、違うと思います(笑)。ワン・チアチーと似ているのは、演じることが大好きなところ。与えられた役にベストを尽くして演じるところ。この役を演じることで、自分の心の一面を映し出すことができたと思います。感情移入できて、本当の自分を見出すことができたんですね。新しく見出された自分は、いままで自分すら気づかなかった自分の一面でもありました」

俳優の、これまで他で見せたことのない表情を引き出すアン・リー監督と、まさに「運命の」仕事をなし遂げたタン・ウェイ。彼女の今後に期待しないことは、相当に難しい。

取材・文・写真(記者会見):多賀谷浩子

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