『アース』 マーク・リンフィールド監督独占インタビュー


- 『アース』監督
マーク・リンフィールド
- 海の世界を美しい映像で描き、日本でも大ヒットした『ディープブルー』。そのスタッフが次回作はどうしよう…と考えたとき、目が向いたのは「もっと大きな地球」だったという。太陽を案内役に、北極からスタートするこの映画は、次第に南下しながら、それぞれの気候帯の生命を鮮やかに映し出し、やがて南極に到達する。5年の月日をかけ、最先端の技術を駆使して撮影した生命力あふれる地球。この映画に託した思いを、マーク・リンフィールド監督にお伺いした。
自然への興味は、幼い頃から
―『ディープブルー』やNHKで放送された『プラネットアース』、これまで自然の映像を手掛けてきたマーク・リンフィールド監督。幼い頃から自然に興味があったそうですが、何かきっかけはあったのでしょうか?
「特に何かのきっかけがあったわけではないんだけど、家の近所に森があって、いろいろな動物がいたんだ。釣りも好きだったし、丘に登ったり、自然に囲まれて育ったんだよ。
それに、学校ではすごくいい生物の先生に恵まれた。ずいぶん影響を受けたね。
幼い頃の僕のヒーローは、ディヴィッド・アッテンボロー卿。彼の『ライフ・オン・アース』などの自然番組をよく観ていたんだ。ああいう仕事をしたいと思っていたんだけど、大人になって、実際にデイヴィッド卿と仕事をご一緒する機会にも恵まれたんだよ」
―幼い頃から大好きな自然と接することが、仕事につながっているなんて素敵ですね。
「共同監督のアラステア・フォザーギルも僕も、幼い頃から自然を愛していたから、こんな風に、まるで地球の広告映像を90分撮ってくれ、しかもお金も使っていいなんてオファーはすごく嬉しかった。夢のようだったよ。だからこそ、撮影期間中は、責任感を持って撮影に臨んだ。長い期間の中で撮影がうまくいかない時も、落ち込むよりは、頑張って粘り強くチャレンジを続ければ何とかなると考えていたよ」
美しい自然を「撮る」むずかしさ
(C)BBC Worldwide 2007
―観ていると、ひたすら美しい自然の映像。けれど、それを撮ることにはいろいろと困難なこともあるのでは?自然を撮る心がまえとは、どんなことなのでしょう。
「いい画を撮りたいという気持ちをしっかり持つこと。けれど決して、動物たちを居心地悪くさせないこと。動物をよく知ることが重要だし、動物のフィジカル・ラングエッジを理解できることも大切だね。動物に寄りすぎたりして、動物の世界を妨げてしまうことはやってはいけない。もし、自分たちの方を観ている画が撮れたとしても、それはあまりいい画ではないから。
それから、動物たちの次の行動を予測することも大事だけれど、これについては長年やっているから勘が働くんだ。あと僕たちがよくやるのは、科学者や生物学者などの専門家の力を借りること。彼らは一生かけて動物たちと付き合っているから、彼らの豊かな知識を借りて撮影することもよくあるよ」
―1秒間に2000フレームの撮影ができる最新機材などを使ったという『アース』。どうやって撮ったの?という映像も、多い。遠くからの映像も、とても鮮明だけれど…
「遠くから撮ってもブレない“シネフレックス”というカメラを使ったんだ。このカメラは、1キロ以上離れたところから撮影しても、すぐ横で撮影しているような映像を撮ることができる。特別な新しい技術を組み込んだカメラなんだよ。この映画では、カリブーがオオカミに追われるシーンや、薄い氷の上に白熊がいるようなシーンを撮影した。人間が裸眼では見えないほど遠くにあるものも、鮮明にとらえることもできるんだ。
撮影をしていく中で、その場にあるものを駆使して撮影に臨むこともあったよ。中でも熱帯雨林の撮影で編み出した撮影セットは、いま特許申請中なんだ。壊れた自転車の部品とロープを使った撮影手法なんだよ」
動物たちへのアプローチ
(C)BBC Worldwide 2007
―大学で動物学を学んでいたというマーク監督。そういったアカデミックなアプローチが実際の撮影に活きてくるのは、どんな場面なのでしょう。
「特に、物語を組み立てていく時に役立つね。自然界の摂理や進化、動物の行動について理解していることは、とても大事なんだ。いちばん役立つのは、物語を組み立てたり、脚本やナレーションを書く時だね。実際の撮影現場では、もっと勘や本能的な感覚を遣うことが多いから、どちらかというと物語や脚本の段階で役に立つね」
―では、本能的な感覚を頼りにするという現場の話を。たとえば、熱帯雨林に生息するゴクラクチョウの場面では、とてもユニークな行動が見られますよね。ああいう貴重な映像は、ゴクラクチョウを撮影しようと思って、このあたりに行けば会えるという土地に行って会えるものなのでしょうか?
「専門家は、いつ彼らがやってくるか、どんな時期に彼らがどこにいるのかよく知っているから、こういう撮影の時は彼らと一緒に行くんだ。ただ、ゴクラクチョウの時は、専門家がいなかった。だから、パプア・ニューギニアの地元の人の情報をヒントに撮影したんだけど、時に動物たちの狩りをしている人から情報を得なくてはいけない。ゴクラクチョウの時も、彼らのエキゾチックな羽を狩る人たちから情報を得なくてはならなかった。それはジレンマだったね。
撮影しに行って、その場で僕らが求めていることをゴクラクチョウがやってくれるかというと…だからこそ今回、5年の期間が必要だったんだ。というのも、実際に現地に行っても、そこにはいなかったり、思うようにやってくれなかったり…『アース』のために選んだ動物たちや、僕らが撮りたいと思っていた行動は、なかなか撮影するのが大変なものなんだ。今回は、敢えて大変なものにチャレンジした。だから、5年の歳月が必要だったんだ」
環境問題へ及ぶ展開
―ラストの北極グマのシーンでは、さり気なく地球温暖化の問題にも触れている。環境問題といえば、『不都合な真実』が話題になったけれど…。
「『不都合な真実』は「既に失ったもの」を描き、警鐘をならしている。でも、僕の作品は「未だあるもの」を描き、そこには希望を感じてもらえると思う。 根幹に流れるメッセージは同じなのかも知れないけど、表現の仕方はある種反対だね。
この作品が始まった5年前は、まだ環境問題についての映画は今ほど多くなかった。だから、特に環境問題を意識したわけではないんだけど、『アース』を観ることで多くの人たちが、今残っている自然について何か考えてもらえたらいいなと思う。
地球のことを映画にすることで、より一層エンターテイメント感を出せる。それによって人は足を運びやすくなるだろうし、楽しみながら地球に何が残っていて何が問題なのかを分かってもらえる。この映画で説教じみたことは描きたくなかった。生命感あふれる地球を見せたかったんだ」
地球から教えてもらうこと
(C)BBC Worldwide 2007
―幼い頃から現在に至るまで、自然とともに生きているマーク監督。多くの年月を費やす撮影期間はもちろん、日々の中で、自然から教わることも多いのでは?
「自然から教わることは、大きく言ってふたつある。
ひとつは、忍耐力だね。動物たちにはそれぞれのスケジュールがあるから、こちらの都合に合わせて急かそうとしても叶わない。彼らのスケジュールに合わせていくしかないんだ。
もうひとつは、自然界では生と死を、ごく普通のこととして、日々目にする。すると、死というものに対して、ある種、理性的になれる。死を遠くにある神秘的なものとしてとらえるのではなくて、生命の循環が、とても自然なことに思えてくるんだ」
来日した10月末も、車でアメリカを横断する旅の途中だったというマーク・リンフィールド監督。仕事もプライヴェートも、幼い頃から愛し続けている自然一色。夢のような人生を歩んでいる監督の次回作は、「チンパンジー」。今度はどんな本物のドラマを見せてくれるのか、楽しみだ。

