29歳の新鋭、『ジャーマン+雨』横浜聡子監督単独インタビュー


- 『ジャーマン+雨』監督
横浜聡子
- 12月15日(土)に公開される『ジャーマン+雨』。この映画、すごいのだ。ゴリラーマンにそっくりな主人公・よし子と同様に、映画そのものが、小さな子供みたいに予測不能。どこに行くのかわからず、とってもパワフルなのだ。
そんなスゴイ映画を撮ったのが、29歳の新鋭・横浜聡子監督。インタビュー中も、終始、飾らず、リアルなまま。それは作品にも表れ、地に足のついた作風。いまを生きている20代の女性が撮ったという感じがする。それなのに、軽々と既存の日本映画の枠を超えてしまう、フヘン性をもっている。
はて、どんな人が、どんな風に作った作品なのか……
『ジャーマン+雨』のはじまり
「この映画、「トラウマなんてクソくらえ!」っていうコピーになっているんですけど、映画祭とかで色々な自主映画を観ていて、なんとなく内向的、内省的な映画が多いなと。観ていてあんまり面白くなかったんですね。だから、それとは逆のことをやりたいなと思いまして。トラウマとか、そういうことに対抗する、まったく逆のことを。自分に対抗してくるものがあっても、それにいちいち屈しない。軽くあしらって前に進んでいくキャラクターをやりたかったんですよね」
―それが、よし子なんですね。いいですね、よし子!
「皆さんにそう言って頂いて、ありがたいです。よし子のキャラクターは、最初からビシッと決めていたわけではなくて、なんとなく言葉遣いが乱暴とか…「だせえ」とか言うんですけど、そういうのは自分も口が悪かったりするので(笑)、そういうところから自然に出てきちゃうところもあって。脚本を書きながら、だんだんよし子にいろいろな要素が肉づけされていく感じでした。最後には、書いている自分にも、どうなるのかわからない…」
―よし子は、年齢的には高校生くらいだと思いますけれど、学校にも行っていないし、あばら家にひとりで暮らしているし、植木職人だし。世の中とちょっと距離のあるところで生きていますよね。その年代の一般的な女の子とは違っていて、なんだかいきものっぽい。小さな子供のような。
「自分では、そんなに意識はしていないんです。脚本を書くうちに、もしくは出来上がった映画を観てなんとなく気づくんですけど。ただ、よし子についてはやっぱり子供っていうのを意識していて、他人を含め社会に色々な実験を施しているというか。社会性、倫理性が子供ってあまり身についていない状態だと思うんですけど、その状態でどうやって生きていくかっていうのをやってみたかったんだと思います」
野郎の中に女がひとり
(C)横浜プロ
―よし子は、植木職人の見習いですよね。
「よし子の職業に関しては、野郎しかいないところに、ゴリラーマンよし子がいたら、多分、苛められるんじゃないかなと思って。そういう職場だろうと思って。最初は、タイル工の仕事ってことで書いていたんですけれど、いろいろな問題から植木屋いいなと思って。そこで、苛められ、苛めさせようと。男の中のよし子をやりたかったんです」
―自分が女の人であることが居心地よくないんでしょうか?よし子は。
「いや。居心地悪いとか、意識していない。顔がかわいくないことも、意識していないと思いますね」
―他と比べて、どうっていうのが、あまりないのかな。
「表面的にはないかもしれないけれど、心のどこかにはあるのかも」
―まわりに左右されないですよね。彼女の「ここにいます!」っていう感じがすごい。
「たぶん、ああいう風になりたいっていう自分の理想でもあるのかもしれないです」
―そういうよし子なんだけど、「子供100人作って子孫を残さなきゃ」とか、歌うことが目的じゃなくて社会に認められるのが目的ってところがあるじゃないですか。「ストリートやライブハウスはダメ。絶対、メジャーデビュー!」って。ゆるぎないんだけど、そういう部分もある…なんで笑ってるんですか?(笑)
「いや、そうだなと思って。よし子は、ヘンな人だなと」
―トラウマ映画になりそうな要素は、いっぱい持っているのに、そうならないところがすごいですね。なかなか泣ける…。
「切ない…。よし子は、もともとこうなりたいという目標が見えているわけではなくて、その都度その都度、感じている。人と接することにも、しゃべっていることも、本当に子供なんですよね」
―ああいうよし子みたいな、大きくなっても子供っていう人、どう見ています?
「いや、あれが周りにいたら、嫌だなと。あんなワガママな人が。フツーに困りますよね。一緒に仕事するとかなったら。困ると思います」
―そんなよし子に、友達の女子高生・まきちゃんは寛容ですよね?でも実は、よし子よりもヘンかも…。
「たぶん、そうなんだと思います。本当はよし子みたいになりたいけど、自分の社会性も捨てられない。その中間で悩んで、ふらふらしている人なのかもしれないですね」
―彼女のキャラクターを入れたのは?
「やっぱり、よし子と対照的な人物を置くことで、よし子がどう反応するかもやってみたかったんです。1年前くらいに、大手の企業で派遣で働いていたことがあるんですけど…トイレに入ってOLの人たちはどんなこと話してるんだろうって聞いてみたんですよ。そしたら、「休みの日、何する?」って会話で、「明日はおいしいもの食べて、エステ行って、フラメンコを踊る」とか言ってて。すごい!まさに考えてたOLとそのまんまじゃんと思って。そういう要素をマキに入れてみて。よし子の社会性のなさ、社会からの疎外感をますます引き立てられるかなと」
よし子と歌
―ところで、よし子は他人のトラウマをノートに書き取って、タテ笛で作曲するじゃないですか。
「音楽教室をよし子がやっているだろうというのがあって、脚本を書いているとき、楽器なら鈴とか何でもいいんだけど、笛一本で生きている女っていいなって。かっこいいですよね。それでタテ笛というのが出てきて、トラウマを逆手にとって昇華するくらい、別のものに…曲にしてしまうというのが、あるんです」
―よし子が歌う『ジャーマン+雨』という歌は、脚本を書いていてどのあたりで思いついたんですか?
「あそこで『ジャーマン+雨』っていう曲を歌うことは決まっていたんですよ。内容に関しては書きながら考えたんですけど、なんとなく、この前の話の流れから、よし子が血にこだわっているというか、トラウマなんか気にしていないように見えて、実は自分の血縁に執着しているというのがわかってきて。血となると、ドラキュラだよな。『ノスフェラトゥ』っていうドイツ映画もあるし。ということは、なんとなく本当に、流れが徐々にできてきて、ああいう歌詞になってきたんですけど」
―ぜんぶ流してくれってことで、雨が出てくるという。
「そうです、そうです。水を入れようと思って」
―なんでですか?
「タイトルの雨から来たんですけど」
―タイトルは最初からあったんですか?
「はい、タイトルは最初から、3年くらい前からあったんです。タイトルだけ。ある日、頭に浮かんで。そういうのがはやっていて、自分の中で。中身全然ないんです。意味もないし」
―はやってたんですか?(笑)
「はやってたんですよ」
…そういうの、電車の中とかで思いついたりするんですか?
「まさに電車の中で浮かんで、忘れちゃうのですぐ、ケータイにメモして。それで友達に「このタイトルどう思う?」ってダイレクトに聞くんですよ。そうしたら、いまドキドキした、ときめいたって言われて、うれしいんですよね。調子にのって、自分の中でもりあがって、いつかジャーマンが出てくる映画を撮ろうっていうのが、なんとなくありました」
よし子役の野嵜好美さん
(C)横浜プロ
―よし子のキャスティングは?
「最初に出会ったのは、オーディションの時だったんですけど、色のついていない子がいいなというのは、いつも役者を選ぶときに決めていることなんです。変に癖がないというか、見た目も台詞の言い方も。そういう面でなんとなく、野嵜さんは最初から引っかかってたんです。オーディションをいろいろして、何人か気になる方はいたんですけれど、誰にしようか迷っている時期に、山下監督の『道』のビデオを観て、「この人、おかしいな」って。いろいろ出来そうだなと。もう一回、野嵜さんに1対1でお会いしてみて、近くの公園でエチュードをやってみて。私が先生役で野嵜さんは小学生の生徒役ねって言って台詞を投げかけて。やってみたりして、後は歌を歌ってもらったり、すごい大きい声で。童謡を。本当にいろいろやらせちゃって。それで、本当に幅が広いな、引き出しがいっぱいありそうだなと」
―チラシのビジュアルからは、よし子はもっとぶっ飛んで、振り切った人なのかなと思ったんですが、映画を観ると、もっといい具合ですよね。
「私が脚本やオーディションで考えていたよし子が、ぶっ飛んでいるよし子だったんです。鼻息常に荒くて、デブで、本当に見るに耐えないくらいの、ブサイクなのを考えていたんですよね。行動も乱暴で。ちょっとスタッフと話したら、それだと観客がついてこられないんじゃないかと(笑)。野嵜さんだったら、やろうと思えばブサイクもできそうだし、可愛くもなれる人だったので。ちょうどいいなと思ったんです」
―マンホールに落ちるシーン、よし子の落ち方が素晴らしかったですね。
「1回しかできない状況で、本当は私が落ちて見せてやればよかったんですけど、どうしても落ちる勇気もなくて。卑怯なことに(笑)。それで助監督の女の子が代わりに落ちたんですよ。だいたい、自分の中でイメージはあったんですけど。助監督が落ちた甲斐があって、見事なシーンになりました」
なぜだか、笑えてしまうのは、なぜ?
―この映画、いろいろなところで笑えてしまうのですが、あれは意図したものなんですか?
「笑いを狙っているわけじゃないんです、いつも。映画を観ていて、観客の方が笑うところが、びっくりするんですよね。狙いでやると、たぶんつまらなくなるので」
―カイくん(よし子が彼に惹かれて植木職人になる、美しいドイツ人)が、『ゴリラーマン』(よし子はゴリラーマンに似ている)の漫画を買う時に、全巻ものすごい冊数を買ったりするでしょう?なんか可笑しかったです。
「やっぱり、そういうところは大胆に全巻で。「あのカイが全巻買うの〜?」みたいな。「アイツおかしいんじゃないか」っていう…なんとなく、そうなっちゃうんですよ(笑)」
映画を撮ることについて
―この映画、後半あたりから、どんどんパワフルになっていくじゃないですか。だんだん、理屈じゃない世界に入っていく。
「実際、どういう風に撮ろうかっていうのをすごく悩んでいまして。落書きのところですよね」
―地面の上で物語が進んでいたのが、離陸していく感じがあって、パワフルだったんですよね。撮ろうと思って撮れるものでもない気がして。
「落書きのシーンは、音とか美術さんの画もすごく影響していると思います。なので、一番最後が音づけの作業なので、そこに行くまでどういう風になるか、わからなくて。あのシーンは、録音部さんがいろいろ実験して、色々な音をつけて、生み出されたものなんです。撮影が終わった段階でも、どうなるのか、まだわからないというか、これからまだ、新しく作るなという風に思ってました」
―これから、こういう風に映画を撮りたいというのは、ありますか?
「2作品しか撮っていないんですけど、なんとなくお話だけは自分の中にしっかりあるんですが、作る前は、映画にしたときに、どうなるんだろうっていう考えがなかなか生まれてこないんですね。現場で、その時のなまの感じで、ばっと行くことが多いので、もうちょっと自分の中でコントロールしている映画が撮りたい。このシナリオのここのシーンを表現するために必要な技術を、すべて駆使して映像にしたいっていう。まだまだ映画に関して不慣れというか」
―それが、パワーになっているのかも。
「それは、毎回続いていくわけじゃないですからね。気持ちは忘れないと思うけど。なんだかわけのわからないものをぶつけたいというのは、あるので」
―2本撮られて、1本目のときと違う後味はありますか?
「前は素人の役者さんにやってもらって、自分の思うままに台詞の言い方とか細かい動きもやってもらったんです。自分の頭の中の人物が、本当にそのまま、目の前にいた感じなんですけど、今回、よし子に関しては、自分のイメージしていたよし子を野嵜さんにぶつけても、なかなか、そのまま返ってくることがなくて、撮影の最初の段階ではすごくそれに戸惑っちゃったんです。なので、もうちょっと、役者さんに自由に演じさせて、それを受け入れたうえで、物語をどう変えていくかっていうのをその場で考えなければいけないなと思いました」
大学に入ってから、色々な映画を観るようになったという横浜監督。大学で最初に人に勧められたのが「時計じかけのオレンジ」だったそう。それまではアニメやアイドル映画(ジャニーズが好きだったそうです)、ハリウッド映画を観るくらいで、特に何かを作りたいということもなかったというから驚き。ただ、空想するのは好きだったそうです。ジャニーズと『ジャーマン+雨』は、本当に結びつかない。面白い…。飾らない言葉でひとつひとつの質問に答えてくれた横浜さん。これからの可能性も未知数。ちなみに次回作は、男の主人公。やはり、コドモな人だそうです。楽しみです。

