この監督に注目!「自虐の詩」堤幸彦監督インタビュー


- 『自虐の詩』監督
堤幸彦
- 「幸も不幸もない」。勝ち組・負け組なんてコトバがしばしば聞かれる、いまの世の中のド真ん中に届く、方言まじりの中谷美紀さんのナレーション。ほっこりあたたかい涙がわいてくる名作4コマ漫画を原作に、堤幸彦監督が映画化した『自虐の詩』が今月末から公開されます。『ケイゾク』などのTVドラマはもちろん、映画も大作からミニシアターまで、さまざまな作品を手掛ける堤監督ですが、堤監督が小さな作品を手掛けた時に滲み出る、不思議と心に染みる感じが、この作品にもじんわり。そんな『自虐の詩』の製作秘話、そして堤映画のきもちいいリズムの素についてお伺いしてきました。
映画「自虐の詩」の誕生秘話
(C)「自虐の詩」フィルムパートナーズ
―『自虐の詩』も主にふたりの物語ですが、たとえば過去の作品でいうと『2LDK』(03)だとか、堤監督の作品の、密室劇というか、限られた場所、限られた人数で、限られた時間に繰り広げられる物語が印象に残っているんですよ。
「小さい世界、好きですね。特に、現実の場所における虚構の話が好きで。それは池袋(『池袋ウエスト・ゲート・パーク(IWGP)』)とかね、とある品川の団地(『ピカ☆☆ンチ』)とか、商店街(『Stand Up!!』 )とか。場所は現実なんだけど、そこにおける話は虚構だっていう設定が最近は本当に好きで。この話も最初は、原作も大好きだし、泣けると銘打っているだけに、自分で大丈夫なのかな?っていうのがあったんです。なおかつ、中谷さんだって聞いた段階で「あ、ムリムリ、もうオレは松子(『嫌われ松子の一生』)を超えられるはずがない」と。素晴らしい賞を沢山とっているし、ちょっとシチュエーションが似ているなと思ったし。違う立脚点を作れるはずがないと思って、ちょっと断りかけたんですよ。
でも、中谷さんの顔を見ていたら、もしかして、場所を変えればっていうところがフっとわいてきて。本当に思いつきで、一点、大阪を舞台にもってくれば、できなくもないんじゃないかと。『どついたるねん』とか大好きだったし、飛田という場所も気になっていたので。現代の流れ者といえば、飛田に流れ着くのは不思議じゃないんじゃないですか?って。「じゃあ、見にいきましょう」って皆で飛田を見に行ったんですよ。そこから、もうトントン拍子にこの話が動き出して。そういう現実の土地のパワーを借りることが最近は本当に多いですね。『包帯クラブ』なら高崎だし、『明日の記憶』も港北ニュータウンが裏テーマになっていて、表には出していないですけれども。そういうところがあると、腑におちるというか、話を作れるような気がするんですよね」
中谷美紀さんと阿部寛さんのこと
―冒頭の中谷さんの訛のあるモノローグ、染みますね。
「非日常的だけど、リアリティがあるっていうので、よく方言を使うんです。自分の中で方言っていうのは、なんか裏テーマみたいになっていて、方言を使うことで、「こぉもふこぉもなぃ(幸も不幸もない)」っていういちばん言いたいことが、すごくすっきり言えちゃう。「幸せも不幸せもありませんでした」って言うよりも。それは岸田今日子さんに任せるべきだろうって感じで。簡単に語るにしても、照れくささがなくなるというか。
ただね、ナレーションを方言にしたいって言ったのは、中谷さんなんですよ。今回は本当に持ちつ持たれつ。衣装にしても、彼女がこういう風にしたいって。僕は「もっと地味で小汚くていいんじゃない?」って言ったんですけれど、「いや、21世紀ですよ」ってところから。原作の時代に比べてちょっとおしゃれなんですよ」
―阿部さんとのお仕事も続いていますよね。『トリック』に『大帝の剣』、そして『自虐の詩』と。
「阿部さんには本当に助けられていて毎回、お互い、ちょっとずつアイディアを出し合いながらやらせてもらっているので、組むのが本当に面白い俳優さんのひとりですよね。今回も、「あまり台詞ないんですけれど、怖くしたいですよね」って言ったら、「じゃあ、パンチだ」ってお互い盛り上がっちゃって。いかに怖い顔をできるかって、パンチパーマをした人の写真を集めて、どれにしようって(笑)。「眉毛は剃らないとマズイだろう」とか、いろいろなことを言いながら。『チャンプロード』(暴走族の雑誌)とかで、ウンコ座りしている人の顔をサンプリングしながら、「あれがいいかな?」って言って(笑)。そういうことで盛り上がれるのは、本当にいいなぁと思いますね」
―マトリックスは、どの辺で?
「あれはねえ、阿部さんの髪の毛、最初からパンチだと面白くないなと思っていて。やっぱり、不器用で無骨なヤクザだから、“人と同じことを良しとしない”美学みたいなものを持っているんじゃないかというところで、ロン毛のヤクザになっちゃって。ロン毛のヤクザで来てもらったんだけど、どう見たってマトリックスにしか見えないから。「マトリックス?」って(中谷さんの台詞で)ちょっと言ってみたりして(笑)」
堤監督の映画と音楽
(C)「自虐の詩」フィルムパートナーズ
―さっき方言の話が出ましたけれど、方言ってリズムがいいじゃないですか。堤さんの映画のリズムも、音楽のようですよね。音楽のバックグラウンドをお伺いしていいですか?
「僕は、本業は音楽なんですよ。ミュージシャンもやっていて、4、5年前にCDを出したりもしていて。本業は、飽くまでビデオクリップを作る人なんです。80〜90年代ずっとやっていて、あとはアーティストの舞台の演出をするというのが本業で。だから、(今回、主題歌を歌っている)安藤裕子さんもずっとそっちのつきあいで。声を楽器みたいにしようとか、軸足の一部は音楽においているところはあります。編集をしていても、音楽がまずありき。編集をつなぐのも、すぐに音楽を入れちゃうんですよ。
子供の頃からずっとロックバンドで、何も勉強してこなかったし、映画のことも何も知らなかったので。もう70年代のお約束の20世紀少年のような青春でした。レッド・ツェッペリンとかT−REXとかね、だんだんアメリカに傾いて、最終的にははっぴいえんどオタクっていう(笑)。はっぴいえんどに関しては、佐野史郎さんと一晩中、ロフトプラスワン(新宿にあるライブハウス)で対談したこともあります」
―この映画のラストで安藤裕子さんの声がふってくるの、いいですね。『2LDK』も、彼女が主題歌を歌っていますよね。
「彼女は『IWGP』に出演していたんですね。音楽をやるっていうから「どんなのやるんですか?」って聞いたら、1年くらいしてデモテープをくれたんです。それが、あまりにもよくて!「あなた、絶対、はっぴいえんど好きでしょう?」って言ったら、「なんで、わかるんですか?」って。もうそこで盛り上がって、もらったデモテープをそのまま『2LDK』のテーマソングにしちゃったんですよ。あまりにもよかったから。今回の曲は、彼女の独特の浮遊感のあるサウンドメイキングとはちょっとまた違う、口はばったいような愛とか、そういう内面の美しいものみたいなのをテーマに作ってくれて。この曲のプロモーションビデオも撮ったんです。それもまたすごくよくて。今いちばん好きなアーティストですね」
作品の規模は関係ない
―堤監督は大作からミニシアター系の作品まで、いろいろな作品を手がけていらっしゃいますよね。取り組み方に、違いはあるんですか?
「あまり作品の位置みたいなものは考えないですね。大きな規模のお話であろうが、予算何百万の作品であろうが、あんまり関係ないんですよ。自分のやっている劇団なんて、超ビンボー劇団で、自腹でやったりもしていますし。そこにいる100人のお客さんに笑ってもらえないと、どんなに大きいことをやっても意味がないと思っているので。その作品ごとに、自分に何ができるかを考えるだけですね」
とても静かに落ち着いたトーンでお話される堤監督。そのトーンも、やはり音楽のようでした。映像で音楽している。だから、堤監督の映画は、すっと生理になじむのでしょう。この『自虐の詩』も染みます。「幸も不幸もない」、まさに今!な作品。
10月27日(土)、渋谷シネクイント、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー

